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ILH代表黒部のブログ

バングラディッシュという国

綱島の自動車工場で働いていたバングラデシュの青年と菊名にあった国際交流会館で出会
った。日本の自動車産業は下請け工事での労働者に支えられていると言うが、労働者は日
本人ばかりではなく、アジアの周辺国から日本に仕事を求めて入国してくる非正規労働者
にも支えられていた。一度現場を見に行ったことがあるが、うなぎの寝所のように長っぽ
そく、狭いカウンターに数人の外国人が小さなボルトの組み立てをしていたのが印象的だ
った。
トニーという当時18歳の青年もそういった労働者の1人だった。数人の仲間と一緒にラン
ゲージ・ハウスに遊びに来た。バングラデシュ名物のビリヤニという炊き込みご飯や、鯉
のような魚をスパイスで漬け込んでフライにした料理など、ワイワイガヤガヤと一週間に
一度は集まっていた。ところがある日、不法在留の手入れがあり、彼らの多くが強制送還
された。トニーが出国する前日、元町にあった移民局に面会に行った。プラスティックの
窓越しにお互い言葉も出なかったが、「これお母さんの子供にプレゼントです」といって
渡されたのがソニーのワークマンだった。こんな高価なものを?!とびっくりしていると
、「僕たちを家に受け入れてくれたお礼です」という。涙が出た。
 それから23年経った。トニーとは時々メールを交わすぐらいだったが、メッセージに
は必ず「いつバングラデシュに来ますか。来たら食べ物と寝るとこを用意します。」と流
暢な日本語メッセージがあった。正直バングラデシュへの旅はハードルが高いと思ってい
た。インドは過去に5回ほど行っていて、毎回都市化が進み、都市での生活は日本とそれ
ほど変わらない。しかしバングラデシュは過去の貧しさからどう発展しているか、治安や
衛生状態はどうかなど、ネット情報だけではわからないことがたくさんあった。そこを後
押しできたのが、「バングラデッシュには日本で働きたい若者がたくさんいる。」という
ことだった。
 バングラデッシュの経済成長はインドと同じ前年比7%増である。人口は1.7億人で世界
第8位、主要産業はテキスタイルが輸出の8割を占めている。実際ダッカの空港で出会った2
人の日本女性はテキスタイル企業からの出張で、バングラデシュに新しい工場をスタート
させるという。今までは中国に依存していたが、人件費の上昇で、今後はマンミャーとバ
ングラデシュに現場の主流を移すと話していた。
 こんなバングラデシュで私はエンジニアを探しはじめている。日本は2030年に80万
人のエンジニアが不足すると予想されている。となると海外からの労働力以外に生き延び
る道はない。しかし言葉の問題や文化、宗教の違いなどから外国人の受け入れを敬遠する
企業も多い。私はこの部分がどれぐらい弊害になるのか、またバングラデシュの若者が描
く日本とは何か、どんなスキルを持ったエンジニアがいるのか、イスラム教というものが
どのくらい生活に浸透しているのかなどを実際に確かめたかった。
 結論から言うと、バングラデッシュ人は親日派であり、勤勉である。これは若者だけで
はなく、主婦でも、子供でも真剣に日本に行きたい、住みたいと言う。日本のどこが好き
かと聞くと「日本人はとても優しい、親切」だという。2番目は「安全で清潔」3番目は「
食べ物が美味しい」という。円安でお給料はアメリカやヨーロッパーに比べると低い。そ
れでも新卒の平均給与が5〜6万円、エンジニアが10〜15万円が相場であれば、「それで
も日本に行きたい」は現実になるかもしれない。バングラデシュが東パキスタンから独立
し、建国する際、真っ先に調印をしたのが日本だった。1970年代日本の自動車会社大手が
こぞって日本に労働者を招き入れた歴史もある。
 バングラデッシュでは毎日大勢の人たちと出会い、その大勢が次の大勢を紹介してくれ
るという毎日だったが、どの顔を見ても温和で微笑んでいる。バングラデシュから新しい
労働力を招き入れることは、エンジニアのスキルだけではなく、自然で明るい人間性を持

ってきてくれるかもしれないと考えると、日本の入国管理局にはくれぐれもよろしくお願
いしますと手を合わせたくなる。私は日本の若い人たちにはバングラデシュの旅にチャレ
ンジしてもらいたいと思う。物価は安くチャイが20円、ポテトチップス一袋30円、ナンと
カレーのセット150円、女性のドレスは100円から、サンダルは100円とアメリカの10分の
いちの値段である。タクシー代わりに使う力車は行く場所にも夜が20分乗って400円ぐら
いである。日本人にはビザの取得も簡単で、空港にある入国管理デスクで簡単な書類に記
入、英語での質問に答えれば通過できる。(ちなみにインドは何ページもあるウエッブペ
ージをダウンロードし、質問に答え、写真やパスポートのコピーを貼り付け、最低でも3
時間はかかるほどに複雑である)
 バングラデシュが貧困から脱出するのにそう時間はかからない。貧富の差を解決するに
は時間がかかるかもしれないが、国全体の経済力は日本を追い抜くこともできる勢いであ
る。23年前の出会いが作ってくれた今回の旅、また新しいページが開けそうでワクワク
している。

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