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ILH代表黒部のブログ

親の決断

私たちは一度子供を授かると、その子の人生の中で親が決断しなければならにことが何度かある。その一つが学校選びである。乳児期から小学校までの学校選択は親の意思決定に関わることが多い。娘が通っていた西町インターナショナルスクールの卒業式で1人の男子学生がこんな話を披露してくれた。
「僕が5歳の時、突然母親が訪問着にキンキラの帯を閉め、いつもより3倍ぐらい念入りに化粧をして、さあ、行くわよと言われました。僕はどこへ行くのかもわからず、気がついたら西町スクールの面接室にいました。母は今まで見たこともない笑顔で先生と話し、同伴していた通訳が母の話を英語で伝えていました。僕の5歳から今日までの人生は母によって決められました。でもずっと楽しかったし英語も話せるようになったので母には感謝しています。」
この話を聞いて私も子供達をより良い学校へ入れるために必死な思いと決断をした時のことを思い出していた。
 アメリカで私立の良い学校に入るには学校と親の面接が物を言う。まず聞かれるのが家での教育方針、子供との会話、将来像などがあるが、同時に質問の合間合間に親は子供の営業マンとなる。売り込むというと誤解されるかもしれないが、自分の子供がいかにこの学校にフィットし、アカデミックな貢献をし、また保護者である自分たちも学校の行事を手伝いながらより良い学校として継続するための努力を惜しまない。などと奥歯が痒くなるような話をポジティブにかつ自信満々に締めくくるのである。また日本の着物は着ないまでも面接にはコンサバティブな装いで挑む。特にマイノリティーと呼ばれる我々アジア人は清楚であることが好まれるようで、父親は間違ってもTシャツにジーパンはNGである。
面接はもちろん英語だが、たとえ文法的に間違った英会話になったとしても相手に伝えようとする意識が重要視される。私はこんなにも我が子をこの学校に入れたい、どうしても入れたい、お願い入れて!ぐらいなパッションを相手に伝えることが面接官の記憶にとどまる。もちろん子供の学習レべル、特に集中力や思考能力などはしっかりと観察されるのだが、親の面接がどれほど強い印象を与えたかどうかは重要なポイントになる。
 私の子供たちはUNIS(United Nations International School)という私立学校に通っていたが、ある時友人から同じ学費を払うならアカデミックな良い学校に転校したほうがいいと言われた。最初はピンとこなかったが考え始めると確かにその通り、バカ高いアメリカの私立学校に品質が備わっていなければ月謝を払う意味がないという友人の意見を聞き入れた。ここで決断である。良い学校はUNISより学費が高い。また転入はハードルが高い。全てが高いずくめである。
しかし子供の将来を考えると、親がここで決断しなければより良い教育は受けられない。お金は日本にいる母に頭を下げた。転入に必要な書類、前の学校からの推薦状のようなものと成績証明書は準備ができた。2人の娘からはなんで転校しなければいけないのかと散々聞かれたが、貴方たちはもっと良い学校で学ぶべきだと振り切った。当時はひどい親だと思ったに違いない。せっかく仲良しの友達ができ、学校生活も不満がなく、部活動も楽しんでいた。なのに転校とは一体自分の親は何を考えているのか、まさにShe is crazyと言われても仕方ない。
 あれから20年以上経っているが、今娘たちは親の決断を快く受け入れている。社会に出て色々な人々に出会い、それぞれの人たちが人生の節目でチャレンジしていることを知り、アメリカでは井の中の蛙はないことを体験した。
 日本はある意味で住みやすい国である。しかしこのぬるま湯に満足してしまうと湯煙で周りが見えなくなってしまう。時にはそこから出て周りを見渡し、自分の可能性を求めて違う水を味わう、幼い頃からそんな意識を子供たちの中に育んでいたら日本の若者の将来はもう少し明るいかもしれない。

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