幼児期の感性の大切さ
昔、私の母が弟を週末音楽教室に通わせていた。まだヤマハが音楽教室を開いていないころの話で、小学校の先生が地元の子供たちの感性を養おうという思いから、自宅で始められたマリンバと打楽器の教室がそれだった。ピアノ教室はそこそこはやり始めていた頃だったが、この先生は小学校の鼓笛隊演奏にマリンバを取り入れていた。名前を秋山先生という。実は東京オリンピックの鼓笛隊を指揮した先生で、鼓笛隊では日本でも有名な先生だった。私も小学校で先生の鼓笛隊に参加した一人だが、とにかくリズムに厳しかった。日本の子供たちのリズム感が失われたのは、軍隊が行進を始めてからだという。私は軍隊行進そのものが鼓笛隊と似ていると思っていたのですぐには先生の言葉が飲み込めなかったが、小太鼓を担当している生徒達のスティックが太鼓の上で振動して、美しいビブラート音になるときに足を上げるのがもっとも美しい行進になるらしい。タン、タカタカ、タタッター、タン、タカタカ、タタッターと両足ぶみをしながらリズムを取っていくと、確かにビブラート音が聞こえて来て足取りが軽くなるから不思議だった。そんな鼓笛隊指導から、もっと子供たちに生の音楽をといって始めた教室だった。母を始め、たくさんの保護者が毎週末先生の自宅に通っていた。
各自に好きな打楽器や、上級生にはマリンバを打たせるのであるが、そこには必ずストーリーがあった。例えば「ペルシャの市場にて」というクラシック曲がある。シルクロードをらくだで旅する小隊の動きや、市場の様子などを音楽で表現する。もちろんペルシャの市場のことは何も知らない子供たちなので、先生はそのお話から始める。面白いし、まるで知らない世界を旅しているようだと母が話していた。子供たちもピアノの練習のように通わされている、やらせれているという意識がないせいか、先生の指示に従って自分が理解した物語を楽器で表現しようとする。先生曰く、どの音も一生で一度出せるか出せないかの音だという。
この音楽教室に通っていた子供たちの多くは大人になってクリエイティブな仕事についている。感性を鍛えられた成果を仕事に活かしているから幸せである。昔日本にも感性を大切にする文化があった。ところがいつ頃からか感性をやしなったところで飯は食えないという風潮が広まり、感性より技術を鍛えよということになった。しかし技術もあるレベルに到達すると、感性なくしては先に進めない。あるボルト屋のおじさんが「感性がないとこの特別なボルトは削れない」と言っていたテレビ番組があった。
感性は幼児期に大いに発達する。劇場に連れて行ったり、美術館に行ったり、自然の中を歩いたり、時にはレストランで美味しいものを食べるのもいい。無駄なこととは考えず、この先行投資が子供の大きな未来につながることを覚えていて欲しい。
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